物損事故で慰謝料は取れる?物損の賠償金と人身事故との違い

物損事故
泣く男性

交差点で停車中に、玉突き事故に巻き込まれました。
バックドアは大きくへこみ、リアバンパーも外れ、テールランプは粉々に砕け散りました。フロント部分もひどい有様です。
何年も貯金してやっとの思いで手に入れ、何か月もかけて改造を重ねた自分だけの作品でした。
いまは怒りを通り越して、ショックで呆然としています。
大したけがはないのですが、車をめちゃくちゃにされたことへの慰謝料は取れるのでしょうか。

思い出の品、思い入れの強い大切なモノ。
そういった自分にとっての宝物は誰にだって一つはあるでしょう。
その宝物が、ある日突然奪われてしまった・・・この喪失感はどうしたら良いのでしょうか。

それは、正当な損害賠償を受けることです。
実は、物損事故の損害賠償には、請求できる相手や、対象となる損害、金額などに一定の基準が設けられています。
また、大きな物損の場合に見過ごされがちですが、軽症であっても少しでもけがをしている場合には、物損事故ではなく人損事故として届出をした方が圧倒的に有利なのです。

ここでは、物損事故の場合に請求できる賠償の内容に加え、物損事故と人身事故の違いを中心に説明していきます。

これを読んで、宝物を失った喪失感を埋めるとともに、正当な賠償を受けるための準備をしていきましょう。

物損事故では、原則として慰謝料は請求できない

「慰謝料」とは、精神的苦痛に対する損害賠償のことですが、物損事故の場合は、原則として慰謝料は請求できません。なぜなら、物損のみの場合は、一般的に財産的損害が賠償されることにより、同時に精神的苦痛も慰謝されると考えられているためです。
財産的損害への賠償については、「3 物損事故の場合に請求できる賠償金」をお読みください。

原則として、慰謝料を請求できるのは、次のような人身事故の場合です。

  • けがをして入院、通院をした場合(入通院慰謝料)
  • 後遺症が残った場合(後遺障害慰謝料)
  • 死亡した場合(死亡慰謝料)

大したけがではないとしても、通院が必要なのであれば、人身事故として届出をしましょう。すでに物損事故として届出してしまっている場合でも、場合によっては人身事故への切り替えが可能です。
人身事故として届出することのメリットについては、「4 物損事故と人身事故の違い」をお読みください。

物損事故で慰謝料が認められるケース

物損事故で慰謝料が認められるためには、最高裁判所の判例によると「財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならない」とされています。
つまり、被害物件が被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有し、単に財産的損害の賠償を認めただけでは償い得ないほどの甚大な精神的苦痛を被ったことが必要とされています。さらに、その物件に対して特別の主観的・精神的価値を有することが、社会通念上相当であることも求められます。
例えば、単にメルセデスベンツのような高級車が壊されたというだけでは、慰謝料は認められません。
一方、犬や猫などのペットは、飼い主にとって家族同然の存在であることも多く、死亡したり、後遺症を負ったりした場合には、慰謝料が認められやすくなっています。

実際に慰謝料が認められた物損事故のケース

それでは、実際に、物損事故で慰謝料が認められたケースを見ていきましょう。

 飼い犬に後遺症が残ったケース
けがしたラブラドールレトリバーラブラドールレトリバー(購入価格6万5000円)が、第二腰椎圧迫骨折の傷害を被り、後肢麻痺、排尿障害の後遺症が残った。

飼い主夫婦に対して、慰謝料40万円が認められた。
(名古屋高等裁判所 平成20年9月30日)
長い間家族同然に飼ってきた犬が死亡したケース
飼い犬が死亡長い間家族同然に飼ってきた犬が死亡した。
葬儀費用2万7000円、慰謝料5万円が認められた。
(東京高等裁判所 平成16年2月26日)
店舗兼住居の店舗部分が大きく破壊されたケース
家に車が突っ込んだサイドブレーキ等を適切に使用せず駐車した車が、無人の状態で坂道をくだり、店舗兼住居の店舗部分に衝突した。被害者は壊れていない住居部分も含めて建物全体を建て替え、約半年間の仮住まいを強いられた。

⇒住居部分と接続する店舗部分が大きく破壊されたことにより生活の平穏を害され、多大な精神的苦痛を被ったとして、慰謝料120万円が認められた。(横浜地方裁判所 平成26年2月17日)
墓石が破壊されたケース
墓石霊園での衝突事故により墓石が倒壊し、骨壺が露出するなどした。
⇒墓地が先祖・故人の眠る場所として、通常その所有者にとって強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性にかんがみ、慰謝料10万円が認められた。
(大阪地方裁判所 平成12年10月12日)
陶芸家の陶芸作品が破壊されたケース
陶芸品車が衝突して、被害者が制作した陶芸作品が破壊された。
⇒被害物件が代替性のない芸術作品の構成部分であり、被害者が自らそれを制作した芸術家であることなどから、慰謝料100万円が認められた。
(東京地方裁判所 平成15年7月28日)

つまり、物損事故で慰謝料が認められるのは、被害者にとって特別の主観的・精神的価値がある物が破壊された場合で、例えば家族同然のペットが死んでしまった場合住居が破壊され平穏な生活が害された場合などということになります。
ただし、極めて個別的、限定的な判断になりますので、同様のケースであっても、必ずしも慰謝料が認められるとは限りません。

物損事故の場合に請求できる賠償金

物損事故の場合に請求できる賠償金は、財産的損害に関するもので、例えば、自動車の修理費や買替にかかる費用などです。具体的には次のとおりです。

物損事故損害項目

車に関する損害

大きく分けて、修理が可能な場合、不可能な場合、両方に共通するものに分かれます。

車の修理

修理費

必要かつ相当な修理費を請求できます。ただし、塗装料金については事故で破損した部分以外の分は認められません。

評価損

修理しても外観や機能に欠陥が生じ、事故歴により市場価値の減少が見込まれる場合には、その減少分を評価損として請求できます。
車の市場価値は、原則として、被害車両と同一の車種・年式・型で、同程度の使用状態・走行距離の車を中古車市場において取得するために必要な価額ということになります。
実務上は、オートガイド社の「オートガイド自動車価格月報(レッドブック)」や、日本自動車査定協会の「中古車価格ガイドブック(イエローブック)」の記載を踏まえ、中古車関連サイト、中古車情報誌、実際の取引事例等の資料を参考にして算定されます。

買替差額

車が修理不能、もしくは修理費が車の時価を上回る、いわゆる「経済的全損」の場合には、事故時の車の市場価値(時価相当額)を請求できます。
事故車がいくらかで売却できた場合には、その代金(スクラップ代金)は差し引かれます

登録手続関係費

被害車両が全損となり、車を買い替えた場合には、登録費用、車庫証明費用、納車費用、廃車費用の法定手数料相当分及びディーラー報酬部分、自動車取得税について請求できます。

代車使用料

代車使用料は、代車を使用する必要性、相当性が認められる場合に請求できます。
必要性については、例えば、仕事で使う場合や通勤・通学で使う場合には認められます。
相当性については、被害車両と同程度のグレードの車種を、通常修理に要する期間(1~2週間)借りた場合は認められます。

休車損(営業車両の場合)

バスや貨物車両など、営業用車両が破損した場合で、その修理や買替のために車を使用して営業ができなかった場合には、その間の営業によって得られたであろう営業利益(平均売上-必要経費)を請求できます。

雑費

レッカー車他にも次のような費用を請求できます。

  • 事故車の引揚費用・レッカー代
  • 事故車の保管料
  • 時価査定料・修理見積費用
  • 廃車料・車両処分費

車以外に関する損害

家屋や店舗などの修理費や、店舗が破損して営業できなくなった場合には、その間の休業損害を請求できます。

家屋・店舗、設備の修理費・評価損

家屋や店舗の修理費や、修理しても価値が減少してしまった場合には、その減少分を評価損として請求できます。

営業損害

店舗が損壊してしまい、その修理期間中に営業ができなかった場合には、その間の休業損害についての賠償を請求できます。

積荷・着衣・携行品等の損害

事故で積荷、着衣、携行品などが損傷したり、使用できなくなったりした場合などは、その分の価値やかかった費用などを請求できます。

ペット・動物の損害

ペットなどの動物は、法律上は「物」として扱われます。
死亡した場合には、葬儀費用に加えて、多くのケースで慰謝料が認められます。けがした場合には、治療費や通院のための交通費を請求できます。

物損事故と人身事故の違い

物損事故と人身事故の大きな違いは、物損事故には自賠責保険が適用されないということですが、他にも次のような違いがあります。

物損事故と人身事故の違い

加害者が任意保険に入っていないと賠償金を受け取れない可能性がある

自賠責保険というのは、すべての自動車について契約が義務付けられている強制保険です。人身事故の場合は、原則として自賠責保険から最低限の補償がされます。
しかし、物損事故の場合は、自賠責保険の適用がありませんので、加害者が任意保険に加入しておらず、加害者自身の支払い能力もなければ、損害賠償金を受け取れなくなってしまうおそれがあります。

運行供用者(自動車の所有者等)に損害賠償請求できない

運行供用者とは、「自動車の運行を支配し、運行によって利益を受けるべき者」のことで、具体的には、主に自動車の所有者などのことです。
他人の自動車を借りて運転した人が事故を起こした場合、人身事故の場合は、運転者だけでなく、自動車を貸した人(車の所有者等)にも損害賠償請求ができます。
しかし、物損事故の場合は、自動車を貸した人(車の所有者等)には損害賠償請求できませんので、基本的には運転者に請求するしかなく、運転者に支払い能力がなければ賠償を受けられないおそれがあります。

被害者が、加害者の過失を証明しなければならない

人身事故の場合は、加害者側が自分に過失がなかったことを証明しなければ損害賠償義務を免れませんが、物損事故の場合は、被害者側が加害者に過失があったことを証明する必要があります。
つまり、損害賠償を受けるためには、人身事故よりも被害者側の負担が大きくなっています。

警察が実況見分調書を作成しない

一般的に、人身事故の場合には実況見分調書が作成されますが、物損事故の場合は作成されません。
実況見分調書とは、事故現場にて当事者双方立会いのもとで、現場の状況や事故の態様を調査した結果を記録した文書です。
現場検証具体的には、次のような内容が記載されます。

  • 見分の日時、場所、立会人名
  • 現場道路の状況(路面の状況、交通規制についてなど)
  • 運転車両の状況(損害の部位、程度など)
  • 立会人の指示説明(ブレーキを踏んだ地点、衝突した地点など)
  • 交通事故現場見取図、写真

実況見分調書は、損害賠償請求をする際の証拠になりますので、過失割合などで加害者と揉めた場合に役立ちます。

人身事故に切り替えよう

提案する女性以上のように、けがをしたにもかかわらず物損事故として届け出てしまうと、人身事故として届け出た場合に比べて不利益であることが多いです。
交通事故に遭って、けがをしたら、必ず人身事故として警察に届け出るようにしましょう。
すでに物損事故として届出をしてしまっている場合には、医師の診断書とともに、警察署に人身事故に切り替えたい旨を届け出ましょう。
例えば1か月通院した場合は、治療費に加えて、19万円から28万円の慰謝料を請求することができます。さらに、むち打ち症などで後遺障害が残ってしまった場合、自賠責保険の後遺障害等級認定で一番軽い14級の認定を受けた場合でも、110万円程度の慰謝料と、後遺障害逸失利益を請求できる可能性があります。
加害者側との交渉を有利に進めるため、大したけがでなかったとしても、身体に異常があったり、通院が必要であったりする場合には、人身事故として届出をしましょう。

人身事故の場合に請求できる賠償金

人身事故の場合は、次のような損害賠償請求が可能です。

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 休業損害
  • 逸失利益
  • 慰謝料

それぞれの詳しい内容や計算方法は、次の記事をご参照ください。

人生ゲーム交通事故

「交通事故示談金とは?損害賠償内容と示談金相場や計算基準を知ろう!」

人身事故に遭ったら法律事務所MIRAIOへ

交通事故の被害者になってしまった場合、賠償金の計算などについて、専門的な知識が求められます。
物損事故の場合は、弁護士に依頼しても賠償金が大きく変わることは少ないですが、人身事故の場合は、慰謝料や逸失利益などにおいて金額が大きく変わることがあります。

弁護士に依頼するメリット

人身事故の示談交渉を弁護士に依頼することで、次のようなメリットがあります。

損害額の算出、専門的書類の作成をしてもらえる

交通事故の損害賠償を請求するには、交通事故の調査、損害額の算出、内容証明郵便の作成、示談書の作成、訴状の作成など、専門的な知識と経験が求められる作業がいくつもあります。
このような時間と手間のかかる作業を弁護士に一任することで、治療に専念することができます。

示談や訴訟の代理人になってもらえる

加害者や保険会社との示談交渉や訴訟の代理人になってもらうことができますので、ご自身で直接相手方と話す必要がありません。
この点において、精神的な負担も軽減することが可能です。

より高額の示談金を得ることができる

弁護士に依頼した場合、損害額は弁護士会の基準で算出します。この弁護士会の基準というのは、過去の判例(裁判所の判決内容)を参考に基準額を算定したもので、自賠責保険や任意保険会社の基準よりも高額となっています。
例えば、後遺障害等級第1級の慰謝料は、自賠責保険基準だと上限1650万円ですが、弁護士会基準で算出すると上限2800万となり、実に1150万円もの差があります。

MIRAIOが選ばれる理由

交通事故被害について弁護士に相談されるなら、まずは「法律事務所MIRAIO」でご相談ください。MIRAIOには次のような強みがあります。

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MIRAIOは、医療過誤(医療ミス)やB型肝炎訴訟にも力を入れていますので、医師との協力関係もあり、医学的な知見を豊富に持ち合わせています。
特に、後遺障害がどの等級で認定されるかについては、示談金の金額に大きく影響します。例えば、弁護士会基準による第2級の慰謝料は2370万円ですが、これが第1級に上がると2800万円となり、実に430万円もの増額が可能なのです。
そして、この認定を左右するのが医師の診断書です。MIRAIOであれば、医学的知見を駆使して、より高い後遺障害等級の認定が得られやすい診断書についてのアドバイスをすることが可能です。

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MIRAIOには、交通事故被害に関する経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。中には、大手損害保険会社の代理人経験のある弁護士もおります。
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まとめ

以上見てきましたように、物損事故の場合は、精神的苦痛に対する慰謝料は請求できませんが、以下の表のような損害賠償を受けることができます。

物損事故損害項目

ただし、物損事故の場合、損害賠償請求する際の被害者の負担が大きくなっているだけでなく、けがや後遺障害についての慰謝料を受けることができません。
ですから、少しでも身体に異常があって、通院が必要な状態であれば、必ず人身事故として届出をするようにしましょう。
交通事故の損害の算定や、相手方との交渉には、専門的な知識や経験が求められますので、少しでも不安なところがあれば、早めに弁護士にご相談されることをお勧めします。