退職金も離婚時の財産分与対象になる!分与額の計算方法を簡単解説

対立するシニア夫婦
考えるシニア女性

夫は来年で定年退職します。
退職金は2000万円以上あると思いますが、今離婚したら退職金の分の財産分与を受けられないのでしょうか?

いいえ、今離婚しても退職金の財産分与を受けられる可能性はあります。
将来もらえる退職金であっても、その形成を夫婦が協力して行い、離婚時または別居時における夫婦の共有財産といえるのであれば、財産分与の対象となるのです。

ここでは、退職金の財産分与の方法や計算式など、財産分与と退職金にまつわる役立つ知識を紹介していきます。
これを読んで、財産分与で損しないための知識を蓄えましょう。

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財産分与とは

財産分与とは、離婚の際に夫婦共有の財産を分け合うことです。
対象となる財産は、預貯金、現金、車、不動産、保険、株式などで、離婚時(離婚前に別居している場合は別居時)に存在するものです。
どちらか一方の名義であっても、婚姻期間中に夫婦が協力して形成、維持してきた財産であれば、実質的な夫婦共有財産であるとみなされ、財産分与の対象となります。
また、共働きであるか、一方が専業主婦(夫)であるかを問わず、原則として2分の1の割合で分け合います。

退職金も財産分与の対象になりうる

退職金は、給与の後払い的性質を持つものであるとされています。そのため、婚姻期間中に受けた給与が財産分与の対象であるように、退職金も財産分与の対象となる可能性があります。

将来受給する予定の退職金であっても、その形成を夫婦が協力して行い、離婚時または別居時における夫婦の共有財産といえるのであれば、財産分与の対象となります

退職金の財産分与の方法と計算式

電卓を持つシニア女性退職金の財産分与は、退職金がすでに支払われているか、将来的に支払われる見込みなのかによって、その方法や計算式が異なります。

すでに支払われた退職金の財産分与方法と計算式

すでに支払われた退職金の財産分与額を求める計算式は、次のとおりです。
すでに支払われた退職金は、預貯金や不動産などに形を変えていますが、その形のまま分与、清算することになります。

  • 財産分与額=退職金額×(同居期間/勤務期間)÷2

【計算例】
夫の退職金 1200万円
夫婦の同居期間 20年
離婚時(別居時)までの勤務期間 30年

財産分与額=1200万円×(20年/30年)÷2 
     =400万円

上記計算例によると、妻は、夫の退職金のうち400万円を分与するよう請求できるということになります。

将来の退職金の財産分与方法と計算式

定年退職までは時間があり、すぐに退職する予定がない場合であっても、将来の遠くない時期に退職金を受給する一定の可能性があれば、将来の退職金も財産分与の対象となりえます。

将来の退職金を財産分与するには、次の3つの方法があります。

  1. 離婚時に分与する方法
  2. 将来の退職金受給時に分与する方法 
  3. 財産分与全体の金額で調整する方法

それぞれの方法のメリット・デメリットは次のとおりです。

分与方法メリットデメリット
離婚時に分与する方法
  • 確実に分与を受けられる
  • 早期に解決できる
  • 分与額が低くなりがち
  • 公平さが保てない
将来の退職金受給時に分与する方法
  • 公平な金額で分与を受けられる
  • 分与されるまで時間がかかる
  • 分与されるかどうか不確実
財産分与全体の金額で調整する方法
  • 退職金以外の財産があれば柔軟な対応ができる
  • 基準があいまい

離婚時に分与する方法

離婚時における退職金相当額を分与する方法で、次の計算式で算出します。

  • 財産分与額=離婚時の退職金相当額×(同居期間/勤務期間)÷2

ここでいう「退職金相当額」の計算方法には、主に次の2つがあります。

  1. 離婚時に自己都合退職した場合の退職金額を計算する。
  2. 将来の受給額から中間利息を控除する。

「中間利息」とは、将来受け取るべき金銭を前払いで受け取る場合に、実際に受け取った時点から将来の受け取るべき時点までに発生する利息のことです。この中間利息を控除することで、将来の退職金の現在価値を算出することができます。

【計算例(将来の受給額から中間利息を控除する方法)】

定年退職時の退職金 3000万円
定年退職までの年数 5年
夫婦の同居期間 20年
離婚時(別居時)までの勤務期間 30年
法定利率 年3%

離婚時の退職金相当額(将来の退職金の現在価値)
=3000万円÷(1.03)⁵
≒2587万8264円

財産分与額=2587万8264円×(20年/30年)÷2
     =862万6088円

◆離婚時に分与する方法のメリット・デメリット

この方法のメリットは、離婚時に確実に分与を受けられることと、離婚問題を後に残すことなく早期に解決できることです。
デメリットとしては、まだ実際には受け取っていない退職金であるため、相手の資力がない場合には、低い金額で合意せざるを得ないということです。
また、今後の昇給や昇格を考慮しない退職金額を基準にするため、将来退職金が支払われてから分与を受けるよりも低い金額になりがちで、結果的に分与する側(退職金を受給する人)が、分与される側よりも多く退職金を得ることになって公平ではなくなる可能性もあるということです。

◆離婚時に分与する方法の事例

この方法については、次のような裁判例があります。

東京地方裁判所 昭和62年3月3日
主婦である妻が船員である夫に対して提起した離婚訴訟において、夫から妻への財産分与として、2年後に支払われる退職金債権の2分の1に相当する800万円の分与が認められた。
東京地方裁判所 平成11年9月3日
婚姻期間26年(うち別居期間4年)、夫が6年後に定年退職する予定である事案で、退職時までの勤務期間22年7か月のうちの同居期間12年3か月に対する退職金について、中間利息を控除した金額の2分の1として188万円の分与を認めた。

将来の退職金受給時に分与する方法

退職して実際に退職金が支払われてから、分与する方法です。
分与額の計算式は次のとおりです。

この方法は、すでに支払われた退職金の財産分与の場合と同じ計算になります。

  • 財産分与額=退職金額×(同居期間/勤務期間)÷2
◆将来の退職金受給時に分与する方法のメリット・デメリット

この方法のメリットは、実際に支給された退職金の金額を基準にして分与することで、金額の公平さを保つことができることです。
デメリットとしては、相手方が退職するまで分与を待たなければならないことです。また、相手方が途中で懲戒解雇されたり、勤務先が倒産してしまったりなど、退職金が支払われないリスクもあり、分与を受けられるかどうか不確実でもあります。
さらに、相手方が退職前に死亡してしまった場合、死亡退職金は遺族に直接支払われることが一般的であり、財産分与の対象にはなりません。

◆将来の退職金受給時に分与する方法の事例

この方法については、次のような裁判例があります。

横浜地方裁判所 平成9年1月22日
婚姻期間19年(うち別居期間3年)、夫の退職金(約2191万円の見込み)の支給は2年後という事案で、「退職金を確実に取得できるかは未確定なことであり、‥‥金額も確定されてはいない」として、夫が退職金を受領したときに、その受領金額の2分の1の支払いを命じた(その後の控訴審で、妻の資産も考慮され、夫からの分与額は500万円に変更された)。

財産分与全体の金額で調整する方法

退職金自体を直接的に財産分与の対象とはせず、財産分与の方法を定めるに当たっての考慮すべき一つの事情ととらえ、不動産や預貯金などの他の財産を多めに分与してもらう方法です。

定年退職までの期間が長く、退職金が受給できるかどうかの確実性が低いような場合に、この方法が採用されます。

◆財産分与全体の金額で調整する方法のメリット・デメリット

この方法のメリットは、退職金以外の財産から確実に分与を受けられることや、現金よりも住居の確保を優先したい場合に不動産の分与を受けられるなど、柔軟な対応が可能なことです。
デメリットとしては、基準があいまいであるため、慎重に協議しないとトラブルになる可能性があるということです。

◆財産分与全体の金額で調整する方法の事例

この方法については、次のような裁判例があります。

名古屋高等裁判所 平成21年5月28日
夫の退職金と確定拠出年金(約337万円)は、財産分与の対象となる夫婦の実質共有財産というべきであるが、夫はまだ44歳で定年退職までに15年以上あることを考慮すると、受給の確実性は必ずしも明確ではないとして、これらを直接分与の対象とはせず、扶養的財産分与の考慮要素とし、夫名義のマンションについて、長女が高校を卒業するまでの期間、妻への賃貸を命じた

退職年金(企業年金)も財産分与の対象となる可能性あり

退職年金(企業年金)とは、退職金を一括ではなく、分割して定期的に受け取る制度です。
この年金は、在職中に給料から拠出した掛金も原資となっていることから、婚姻期間中に夫婦の協力により形成された財産とみなすこともでき、財産分与の対象となる可能性は十分にあります
ただし、年金の支給期間には終期があるものとないもの(終身年金)があり、総支給額など不確定要素が多いため分与額の計算は難しくなっています。
分与額の計算方法としては、次のような方法が考えられます。

  • 離婚時(別居時)に解約・脱退した場合の払戻金額×(同居期間/勤務期間)÷2
  • 平均余命までの年金総受給額から中間利息を控除した金額×(同居期間/勤務期間)÷2

財産分与の請求期限は離婚から2年

本と目覚まし時計財産分与の請求ができるのは、離婚の時から2年以内です。
ただし、財産分与についての協議が成立すると、その請求権の時効は支払期限から5年となります。
さらに、裁判所の調停や判決で財産分与を受ける権利が確定すると、その時効は支払期限から10年となります。

財産分与を請求するなら弁護士に相談しよう

離婚して財産分与を請求したいときは、弁護士に相談、依頼するようにしましょう。
自ら財産分与についての協議をすることもできますが、多くの負担が伴うだけでなく、結果的に財産分与の金額で損をする可能性があります。

弁護士に依頼するメリットとしては、主に次の3点があります。

  1. 財産分与が増額できる場合がある
  2. 相手方と話すストレスを軽減できる
  3. 書類作成や裁判手続などを任せることができる

弁護士に依頼するメリット①

財産分与が増額できる場合がある

弁護士が財産分与を請求する場合、財産の状況や夫婦のさまざまな事情、過去の判例などを参考にして、適正な分与額を算出します。
一方、自分で財産分与を請求する場合、そもそも適正な金額がわからないことに加えて、なるべく早く決着させたいという心理から、相手方が払いやすい不当に低い金額で妥協してしまう恐れがあります。
このような事態を防ぐためにも、弁護士に相談して適正な金額を計算してもらいましょう。そうすることで、自分ひとりで請求する場合よりも財産分与額が増額できる可能性があるのです。

弁護士に依頼するメリット②

相手方と話すストレスを軽減できる

離婚しようとしている相手、離婚した相手と直接話すことには、強いストレスや不安を感じるのではないでしょうか。
その点、第三者である弁護士が間に入ることで、直接話し合うことはほとんどなくなりますので、ストレスも大幅に軽減できます。
その結果、財産分与の条件について、冷静に検討し判断することができるでしょう。

弁護士に依頼するメリット③

書類作成や裁判手続などを任せることができる

例えば、財産分与を請求する内容証明郵便を送付したり、裁判所に調停の申立てをしたりするには、書類収集や書類作成という手間がかかります。
また、専門的な知識が求められる書類ですので、自分で作成すると間違いなどの不備が発生する恐れもあります。
弁護士に依頼すれば、そのような手間を省き、間違いを犯すリスクを少なくすることができます。

まとめ

退職金も財産分与の対象になりえます。
分与額は、原則として次の計算式で算出します。

  • 財産分与額=退職金額×(同居期間/勤務期間)÷2

在職中で近々退職する予定がない場合でも、将来受け取る退職金が分与対象になりえます。
その場合の分与方法には、次の3つがあります。それぞれにメリット、デメリットがありますので要注意です。

  1. 離婚時に分与する方法
  2. 将来の退職金受給時に分与する方法 
  3. 財産分与全体の金額で調整する方法

また、財産分与の請求期限は、離婚したときから2年です。早めに請求するようにしましょう。

いずれにしても、財産分与を請求するときは、弁護士にご相談、ご依頼されることをお勧めします。