離婚で年金も財産分与できる?年金分割の手続きについてかんたん解説

離婚したら将来もらえる年金はどうなる?年金も財産分与してもらえるの?

考える女性

年金分割ってどういう手続き?

離婚しても、将来支給される公的年金そのものは財産分与できません
その代わり、「年金分割」という制度があり、婚姻期間中に納めた年金保険料の納付記録を夫婦で分け合うことにより、結果的に将来受け取る年金を分け合うことが可能です。

なお、年金分割の対象となる年金は、厚生年金と共済年金からなる被用者年金(公的年金のひとつ)であり、国民年金や個人年金、企業年金は対象ではありません。

民間の保険会社による年金保険(個人年金など)は、財産分与においては、通常の生命保険などと同じ扱いとなり、離婚時(別居時)に解約したと仮定した場合の解約返戻金に相当する金額が財産分与の対象となります。

離婚時の年金分割とは?

離婚時の年金分割とは、離婚の際に、夫婦の年金(保険料納付記録)を分け合うことができる制度です。
分け合うのは、年金額の計算の基準となる「保険料納付記録」であって、支給される年金そのものではありません。

結婚すると、女性の方が専業主婦として家庭に入ることが多く、年金保険料の納付も男性に比べて少なくなりがちでした。そのため、離婚すると、女性が将来受け取る年金の金額も男性に比べて少なくなる傾向にありました。
そのような男女間の格差を是正するために設けられたのが、年金分割の制度です。

離婚時の年金分割とは?

年金分割の対象となる年金

年金分割の対象となる年金は、厚生年金共済年金のみです。国民年金や企業年金、個人年金などは分割の対象になりません。

離婚時の年金分割とは?

年金分割の請求期限

年金分割の請求期限は、次のいずれかに該当した日の翌日から2年以内です。

  • 離婚をしたとき
  • 婚姻の取り消しをしたとき
  • 事実婚関係にある人が、国民年金の第3号被保険者資格を喪失し、事実婚関係が解消したと認められる日
国民年金の第3号被保険者資格とは
厚生年金、共済組合に加入している被保険者(第2号被保険者)に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満の人)のこと
例えば、会社員の妻である専業主婦は、たいていの場合、国民年金の第3号被保険者に該当することになります。

離婚時年金分割の種類と条件

熟年夫婦1年金分割には、「合意分割」「3号分割」という2種類の方法があります。
それぞれの条件は、次のとおりです。

年金分割の種類と条件

合意分割

合意分割とは、次の条件に該当した場合に、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)を、夫婦当事者間で分割することができる制度です。
分割の対象となる期間は、婚姻期間の全ての期間です。

  1. 平成19年4月1日以降に離婚したこと
  2. 当事者の合意または裁判手続きにより、年金分割する旨と、その割合(按分割合)を定めたこと
  3. 離婚等をした日の翌日から起算して2年以内に請求すること
対象期間標準報酬総額とは
婚姻期間中の各月の標準報酬月額と標準賞与額に再評価率を乗じて得た金額の合計額
標準報酬月額とは
厚生年金保険の被保険者が受け取る給与(基本給のほか残業手当や通勤手当などを含めた税引き前の給与)の金額に基づき区分したもので、保険料や年金額の計算の基準として用いられる。
2021年(令和3年)度版では、1等級から32等級までに分かれていて、例えば、1か月の給与が25万円から27万円までの人の標準報酬月額は、26万円と定められている。
標準賞与額とは
厚生年金保険の被保険者が受け取る賞与の1千円未満の端数を切り捨てたもので、保険料や年金額の計算の基準として用いられる。

年金分割の種類と条件

3号分割

3号分割とは、次の条件に該当した場合に、国民年金の第3号被保険者であった方からの請求により、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者であった期間における相手方の厚生年金の保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。

当事者双方の合意は必要なく、一方からの請求があれば、強制的に分割されます。

  1. 平成20年5月1日以後の離婚であること
  2. 婚姻期間中に、平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること
  3. 離婚等をした日の翌日から起算して2年以内に請求すること

離婚時年金分割でいくらもらえる?年金分割の割合とは?

年金分割の割合は、合意分割か3号分割かによって異なります。

年金分割の割合

合意分割の場合の割合(按分割合)

合意分割の場合は、当事者による話し合い(合意)裁判手続きによって、分割の割合が定められます。

この分割によって、厚生年金の対象期間標準報酬総額が増額する側の、分割後の割合のことを「按分割合」といいます。按分割合の上限は2分の1です。

【年金分割の計算例】この場合、年金分割はいくらになる?
【分割前の対象期間標準報酬総額】夫 3億円 妻 1億円

【按分割合】
0.5

【分割後の対象期間標準報酬総額】
夫 2億円 妻 2億円

※計算式:(3億円(夫)+1億円(妻))×0.5=2億円

年金分割の割合

3号分割の場合の割合

3号分割の場合、分割の割合は2分の1と定められています。

話し合いや裁判手続きによって割合を決める必要はありません。

離婚時年金分割の手続きの流れと必要書類

年金分割の手続きの流れと必要書類は、合意分割か3号分割かによって異なります。

年金分割の手続きの流れと必要書類

合意分割の手続きの流れと必要書類

合意分割の手続きの流れは次のとおりです。

  1. 年金分割のための情報提供の請求
  2. 「年金分割のための情報通知書」の交付
  3. 当事者間の話し合いで按分割合を定める
  4. 家庭裁判所での調停・審判(話し合いでは合意できなかった場合)
  5. 年金分割の請求
  6. 「標準報酬改定通知書」の交付

1 年金分割のための情報提供の請求

当事者双方は、按分割合を定めるために必要な情報(対象期間、当事者それぞれの標準報酬総額、按分割合の範囲など)の提供を請求することができます。

請求は、当事者双方からでも一方からでもでき、離婚前でもできます。

情報提供の請求をするための必要書類
  • 年金分割のための情報提供請求書
  • マイナンバーカードなど(請求書に個人番号を記入した場合)
  • 年金手帳など(請求書に基礎年金番号を記入した場合)
  • 当事者の身分関係を明らかにできる戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)
  • 当事者それぞれの戸籍抄本(戸籍の個人事項証明書)
  • 事実婚関係を明らかにする書類(事実婚関係にあった期間がある場合)

2 「年金分割のための情報通知書」の交付

年金分割のための情報は、「年金分割のための情報通知書」を交付することによって提供されます。

当事者双方が共同で請求した場合は、当事者それぞれに交付されます。
当事者の一方が単独で請求した場合は、離婚前であれば請求者にのみ交付され、離婚後であれば当事者双方に交付されます。

3 当事者間の話し合いで按分割合を定める

年金分割の請求をするためには、当事者間で、①年金分割をすることと、②その按分割合について合意する必要があります。

合意の内容は、合意書や公正証書などの書面にします。

4 家庭裁判所での調停・審判(話し合いでは合意できなかった場合)

話し合いで合意に至らなかった場合には、家庭裁判所に申立てをし、次のような裁判手続きにより、按分割合を定めることができます。

  • 審判
  • 調停
  • 訴訟(離婚訴訟における附帯処分)

5 年金分割の請求

年金分割の按分割合が定まったら、当事者双方または一方が、年金事務所に対して年金分割の請求をします。

年金分割の請求をするための必要書類

当事者双方が年金事務所に直接書類等を持参して、年金分割を請求する場合の必要書類は、次のとおりです。

  • 標準報酬改定請求書
  • マイナンバーカードなど(請求書に個人番号を記入した場合)
  • 年金手帳など(請求書に基礎年金番号を記入した場合)
  • 当事者の身分関係を明らかにできる戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)
  • 当事者それぞれの戸籍抄本(戸籍の個人事項証明書)
  • 事実婚関係を明らかにする書類(事実婚関係にあった期間がある場合)
  • 当事者の生存を証明することができる戸籍抄本・住民票等(1か月以内に作成されたもの)
  • 当事者の死亡の事実と死亡年月日を証明することができる戸籍抄本・住民票等
  • 按分割合についての合意書(話し合いで按分割合について合意した場合)
  • 裁判所の審判書・判決書の謄本(抄本)と確定証明書(裁判所の審判または判決で按分割合を定めた場合)
  • 裁判所の調停調書・和解調書の謄本(抄本)(裁判所での調停または和解で按分割合を定めた場合)
  • 運転免許証、パスポート、マイナンバーカード、または実印と印鑑登録証明書

6 「標準報酬改定通知書」の交付

当事者それぞれの厚生年金の保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)の改定が行われ、その内容が当事者それぞれに通知されます。

年金分割の手続きの流れと必要書類

3号分割の手続きの流れと必要書類

3号分割の手続きの流れは次のとおりです。

  1. 年金分割のための情報提供の請求
  2. 「年金分割のための情報通知書」の交付
  3. 年金分割の請求
  4. 「標準報酬改定通知書」の交付

按分割合は、初めから2分の1と定まっていますので、話し合いや裁判手続きで決める必要はありません。

「年金分割のための情報提供の請求」と「年金分割の請求」の際の必要書類は、合意分割の場合と同様です。

離婚時年金分割についてのよくある質問

熟年夫婦2年金分割についてのよくある質問にお答えします。

年金分割についてのよくある質問①

共働きでも年金分割はできる?

共働きであっても、年金分割はできます。
その場合、「合意分割」による年金分割となります。

なお、年金分割を行うメリットがあるのかどうかは、原則として「年金分割のための情報通知書」から判断しましょう。

年金分割についてのよくある質問②

年金分割した後に再婚したらどうなる?受け取れる年金は減ってしまう?

年金分割をした後に、どちらかが再婚した場合でも、年金分割には影響がありません。

例えば、サラリーマンの夫と専業主婦の妻が離婚し、年金分割がされた後に、妻が別の人と再婚した場合でも、妻が受け取る年金の金額には影響はありません。
年金分割によって増額された保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)に基づき、年金が支給されます。

年金分割についてのよくある質問③

年金分割した後に元夫が死亡したらどうなる?受け取れる年金は減ってしまう?

年金分割をした後に、どちらかが死亡した場合でも、年金分割には影響がありません。

例えば、サラリーマンの夫と専業主婦の妻が離婚し、年金分割がされた後に、夫が死亡した場合でも、妻が受け取る年金の金額には影響はありません。
年金分割によって増額された保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)に基づき、年金が支給されます。

年金分割についてのよくある質問④

事実婚の場合も年金分割できる?

事実婚の場合でも、年金分割できる可能性があります。

当事者の一方が、他方の被扶養配偶者として、国民年金の第3号被保険者であった期間がある場合には、その期間についての厚生年金の保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)を分割することができます。

財産分与・年金分割のことなら弁護士に相談しよう

離婚して財産分与を請求したい、年金分割を請求したいというときは、弁護士に相談、依頼しましょう。

自ら相手方と協議をすることもできますが、多くの負担が伴うだけでなく、結果的に財産分与の金額などで損をする可能性があります。

弁護士に依頼するメリットとしては、主に次の3点があります。

  1. 財産分与が増額できる場合がある
  2. 相手方と話すストレスを軽減できる
  3. 書類作成や裁判手続などを任せることができる

弁護士に依頼するメリット

財産分与が増額できる場合がある

弁護士が財産分与を請求する場合、財産の状況や夫婦のさまざまな事情、過去の判例などを参考にして、適正な分与額を算出します。

一方、自分で財産分与を請求する場合、そもそも適正な金額がわからないことに加えて、なるべく早く決着させたいという心理から、相手方が払いやすい不当に低い金額で妥協してしまう恐れがあります。

このような事態を防ぐためにも、弁護士に相談して適正な金額を計算してもらいましょう。そうすることで、自分ひとりで請求する場合よりも財産分与額が増額できる可能性があるのです。

弁護士に依頼するメリット

相手方と話すストレスを軽減できる

離婚しようとしている相手、離婚した相手と直接話すことには、強いストレスや不安を感じるのではないでしょうか。

その点、第三者である弁護士が間に入ることで、直接話し合うことはほとんどなくなりますので、ストレスも大幅に軽減できます。

その結果、財産分与の条件について、冷静に検討し判断することができるでしょう。

弁護士に依頼するメリット

書類作成や裁判手続などを任せることができる

例えば、財産分与を請求する内容証明郵便を送付したり、裁判所に調停の申立てをしたりするには、書類収集や書類作成という手間がかかります。

また、専門的な知識が求められる書類ですので、自分で作成すると間違いなどの不備が発生する恐れもあります。

弁護士に依頼すれば、そのような手間を省き、間違いを犯すリスクを少なくすることができます。

財産分与や年金分割でお困りの場合は、法律事務所MIRAIOにご相談ください!