交通事故の罰金はいくら?金額はどのように決まる?事故から支払いまでの流れとは?

罰金
青ざめている男性

交通事故を起こしたら罰金はいくらぐらい?その相場は?

罰金は誰がどのように決めるの?

青白い顔の男性

罰金の通知はいつ、どこから届くの?手続きの流れは?

このような疑問にお答えするため、次の内容について解説します。

  • 交通事故加害者に科される刑罰
  • 罰金額の基準
  • 罰金額を決めるときに考慮される事情
  • 事故から罰金を納付するまでの流れ

交通事故の加害者が負う3つの責任

交通事故の加害者になると、次の3つの責任を負うことになります。

  1. 民事上の責任
  2. 刑事上の責任
  3. 行政上の責任

交通事故の加害者が負う3つの責任

民事上の責任

民事上の責任とは、加害者が被害者に対して負う損害賠償責任のことです。

交通事故で相手に怪我をさせたり、相手の車を壊したりしてしまった場合、加害者は被害者に対して、治療費、休業損害、慰謝料、修理費などを支払わなければなりません。
このように、加害者と被害者の当事者同士の賠償責任が、民事上の責任です。

当事者同士で問題になる損害賠償金のことを「示談金」とも言います。なお、示談金についての詳細は、次の記事もご参照ください。

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交通事故の加害者が負う3つの責任

刑事上の責任

刑事上の責任とは、交通事故という犯罪の加害者が、法令に則って、刑罰に服さなければならないという責任のことです。

交通事故による刑罰は、主に「道路交通法」「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)」に定められており、懲役、禁錮、罰金といった種類があります。
つまり、罰金は、交通事故の加害者が果たすべき刑事上の責任の一つということになります。

懲役とは
刑務所に拘禁し、刑務作業を科すこと。
禁錮とは
刑務所に拘禁すること。刑務作業の義務はない。

交通事故の加害者が負う3つの責任

行政上の責任

行政上の責任とは、交通事故の加害者が、公安委員会による運転免許の停止や取消しなどの処分を受けなければならないという責任のことです。このような処分のことを「行政処分」といいます。

行政処分は、点数制度によって実施されており、過去3年間の交通違反と交通事故による合計点数に応じて、運転免許の停止や取消しなどの処分が決まります。

交通事故の罰金はいくら?ケース別にみる罰金額の相場

交通事故で罰金を科せられるのは、次のような行為をした場合です。それぞれの事故や行為について、法律でその刑罰の範囲が定められています。

人身事故だけでなく、物損事故であっても罰金を科せられる可能性があります。

主な交通事故と法定刑

事故の種類・行為刑罰
過失によって人を死傷させた場合(過失運転致死傷)7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金
運転者が負傷者救護義務、危険防止措置義務に違反した場合5年以下の懲役または50万円以下の罰金
運転者が負傷者救護義務、危険防止措置義務に違反した場合(人の死傷が当該運転者の運転に起因する場合)10年以下の懲役または100万円以下の罰金
同乗者が負傷者救護義務、危険防止措置義務に違反した場合1年以下の懲役または10万円以下の罰金
警察官への報告義務に違反した場合3月以下の懲役または5万円以下の罰金
警察官の命令に反して事故現場から立ち去った場合5万円以下の罰金
過失によって他人の建造物を損壊した場合(建造物損壊)6月以下の禁錮または10万円以下の罰金

なお、罰金額の相場については、下表のような目安があるようですが法的な根拠はありません。

交通事故による刑罰の目安

事故の程度刑罰の目安
死亡事故懲役、禁錮、罰金(50~100万円)
傷害事故(治療期間3か月以上または後遺障害あり)懲役、禁錮、罰金(50万円)
傷害事故(治療期間30日以上3か月未満)罰金(30~50万円)
傷害事故(治療期間15日以上30日未満)罰金(20~30万円)
傷害事故(治療期間15日未満)または建造物損壊事故罰金(12~20万円)

実際にどのような刑罰がどの程度科されるかについては、さまざまな事情を考慮したうえで裁判所が決定します。被害者の怪我の程度だけで一概に決まるわけではありません。

刑罰の程度を決めるうえで、裁判所が考慮する事情については、次章をご確認ください。

交通事故の罰金はいくら?ケース別にみる罰金額の相場

過失運転致死傷

過失運転致死傷とは、自動車の運転上必要な注意を怠ったことにより、人を負傷させたり、死亡させたりすることです。
「自動車の運転上必要な注意」というのは、自動車を操縦し、その動きを制御するために運転者に必要とされる注意義務のことです。

過失運転致死傷が成立した場合、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金が科せられます。ただし、大した怪我ではない場合は、刑罰が科せられない可能性もあります。

自動車運転死傷行為処罰法 第5条
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

なお、法務省による統計『犯罪白書』によると、令和2年に過失運転致死傷等によって罰金を科せられた件数を、罰金額別に見ると下表のとおりです。

この統計によると、罰金刑の80%以上が50万円未満の罰金だったことになります。

過失運転致死傷等による罰金刑の科刑状況(令和2年 略式手続によるもの)

罰金額件数
100万円以上109
50万円以上100万円未満6553
30万円以上50万円未満13179
20万円以上30万円未満7211
10万円以上20万円未満8728
5万円以上10万円未満12
5万円未満2
合計35794

交通事故の罰金はいくら?ケース別にみる罰金額の相場

救護義務・危険防止措置義務違反

道路交通法には次のように定められており、交通事故に関係する自動車、バイク、自転車などの運転者や乗務員は、直ちに停車し、負傷者を救護することと、道路の危険を防止する措置を取らなければなりません。

道路交通法 第72条(抜粋)
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。

この義務に違反した場合は、次のような刑罰が科せられます。

救護義務・危険防止措置義務違反の法定刑

加害者刑罰
自動車、バイクの運転者5年以下の懲役または50万円以下の罰金
自動車、バイクの運転者(被害者の死傷が当該運転者の運転に起因する場合)10年以下の懲役または100万円以下の罰金
軽車両の運転者、自動車の乗務員(バスやタクシーなどの運転者以外の乗務員)1年以下の懲役または10万円以下の罰金

なお、ひき逃げや当て逃げは、この違反行為に該当し、通常の過失運転致死傷等よりも刑罰が重くなります。

交通事故の罰金はいくら?ケース別にみる罰金額の相場

警察官への報告義務違反

道路交通法には次のように定められており、交通事故に関係する自動車、バイク、自転車などの運転者は、警察官に事故発生日時、場所、死傷者の数、負傷者の負傷の程度、損壊した物と損壊の程度などについて報告しなければなりません。

道路交通法 第72条(抜粋)
当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。

この義務に違反した場合、3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。

交通事故の罰金はいくら?ケース別にみる罰金額の相場

警察官の現場を去ってはならない旨の命令違反

道路交通法には次のように定められており、交通事故の報告をした運転者に対し、警察官が現場に到着するまで現場を去ってはならないと命ずることができます。

道路交通法 第72条2項
前項後段の規定により報告を受けたもよりの警察署の警察官は、負傷者を救護し、又は道路における危険を防止するため必要があると認めるときは、当該報告をした運転者に対し、警察官が現場に到着するまで現場を去つてはならない旨を命ずることができる。

この命令に従わなかった場合は、5万円以下の罰金が科せられます。

交通事故の罰金はいくら?ケース別にみる罰金額の相場

運転過失建造物損壊

自動車、バイク、自転車等の運転者が業務上必要な注意を怠り、または重過失によって他人の建造物を損壊した場合6月以下の禁錮または10万円以下の罰金が科せられます。

ここでいう「業務」とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるもののことです。
医療行為、工事作業、電車の運転などだけでなく、自動車(マイカーも含む)の運転も「業務」に該当します。

また、「建造物」とは、家屋などの建築物のことで、容易に取り外しができない物です。
自動車は建造物ではありませんので、他人の自動車を損壊しても建造物損壊罪ではなく、器物損壊罪の成立が問題になります。

器物損壊罪は故意(わざとすること)がなければ成立しませんので、通常の交通事故で他人の自動車を壊しても、罰金などの刑罰が科せられることはありません
ただし、当て逃げの場合は、道路交通法の危険防止措置義務違反、報告義務違反に当たり、懲役もしくは罰金が科せられるおそれがあります。

危険運転致死傷と無免許運転について
飲酒運転、猛スピード運転、あおり運転、悪質な信号無視などによって、人身事故を起こした場合は、危険運転致死傷に当たります。
この場合は罰金では済まされず、被害者を負傷させた場合は15年以下、死亡させた場合は1年以上(最長30年)の懲役が科せられます。

具体的に危険運転に当たる行為は、次のとおりです。

  • アルコールまたは薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
  • 進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
  • 進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
  • 人または車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  • 車の通行を妨害する目的で、重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中の車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
  • 高速自動車国道または自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止または徐行をさせる行為
  • 赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  • 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

 

また、危険運転致死傷や過失運転致死傷を犯した加害者が、無免許運転だった場合は、刑罰がさらに重くなります。
例えば、無免許運転で過失運転致死傷を犯した場合は、10年以下の懲役を科せられます(免許があれば、7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金)。

罰金額はどのように決まる?刑罰を決めるときに考慮される事情

交通事故の加害者への刑罰の種類や程度は、さまざまな事情を考慮したうえで裁判所が決定します。例えば、過失運転致死傷の場合は、次のような事情が考慮されます。

  • 結果の重大性
  • 過失の程度
  • 被害者の過失の有無・程度
  • 示談の有無・弁償の有無
  • 加害者の反省の有無
  • 前科・前歴の有無

刑罰を決めるときに考慮される事情

結果の重大性

被害者は軽傷か重傷か死亡か、後遺障害が残ったかどうかなどによって、刑罰の程度が異なります。

刑罰を決めるときに考慮される事情

過失の程度

加害者の過失が重過失だったか軽過失だったかによって、刑罰の程度が異なります。
例えば、居眠り運転、わき見運転、著しいスピード違反などの場合は重過失と判断され、刑罰が重くなる可能性があります。

刑罰を決めるときに考慮される事情

被害者の過失の有無・程度

事故発生の原因が被害者の過失にもあるような場合は、その分、刑罰が軽くなる可能性があります。

刑罰を決めるときに考慮される事情

示談の有無・弁償の有無

既に被害者との間で示談が成立し、損害賠償している(することが決まっている)場合には、刑罰が軽くなる可能性があります。

刑罰を決めるときに考慮される事情

加害者の反省

加害者が事故を起こしたことを反省し、心を入れ替えているような場合には、刑罰が軽くなる可能性があります。

刑罰を決めるときに考慮される事情

前科・前歴の有無

過去にも交通違反や交通事故によって反則金や刑罰を科せられている場合には、刑罰が重くなる可能性があります。

人身事故でも罰金なしのことがある?起訴される確率は?

人身事故を起こすと、法律上は刑罰の対象となります。
ただし、検察官による取調べの結果、不起訴処分となれば刑罰を科されることはありません。つまり、「罰金なし」ということもありえます。

検察官が起訴するかどうかは、被害者の負傷の程度、加害者の違反行為の有無やその悪質性、示談の有無などを考慮して判断されます。

実際、令和2年に検察庁に受理された人身事故の処分は下表のとおりです。
325,890件の受理があり、そのうち起訴されたのは、わずか39,496件で全体の12%程度です。
ただし、死亡事故や無免許運転の場合は、高い確率で起訴されますのでご注意ください。

自動車による過失致死傷等被疑事件の受理件数と起訴・不起訴件数(令和2年)

事故の種類受理起訴不起訴
傷害事故320,20337,193252,740
死亡事故3,9761,735953
無免許傷害事故1,689559143
無免許死亡事故2293
合計325,89039,496253,839

罰金の通知はいつ、どこから届く?事故発生から刑事処分までの流れ

交通事故が発生してから罰金の刑事処分を受けるまでの流れは、下図のとおりです。

刑事処分までの流れ

罰金を科すことや、その金額については裁判所が決定します。それを受けて、検察庁が加害者に納付書を送付します。

したがって、罰金の通知は、裁判所の判決が出た後に検察庁から届くということになります。

事故発生から刑事処分までの流れ

略式手続(略式命令)について

刑事裁判には、正式裁判(公判)略式手続(略式命令)という2種類があります。

略式手続とは、簡易裁判所による書面審査のみで行われる手続きで、法廷は開かれません。略式命令では、100万円以下の罰金または科料を科すことができます。

交通事故で罰金を科せられる場合は、この略式手続になることがほとんどです。
令和2年の検察庁統計によると、下表のとおり、起訴の9割近くが略式手続となっています。
ただし、死亡事故や無免許運転の場合は、正式裁判(公判)となる可能性が高いのでご注意ください。

自動車による過失致死傷等被疑事件の起訴の内訳(令和2年)

事故の種類正式裁判略式手続不起訴
傷害事故2,71334,48037,193
死亡事故1,0686671,735
無免許傷害事故559559
無免許死亡事故99
合計4,34935,14739,496

略式手続の流れ、下図のとおりです。

略式手続の流れ

罰金が払えないとどうなる?分割払いや減額はできる?

罰金は刑罰ですので、原則として分割払いや減額はできず、定められた期間内に一括で納付しなければなりません。
罰金を納付しない場合は、財産を差し押さえられる可能性もあります。差し押さえられるような財産がない場合は、労役場に留置され、所定の作業をしなければなりません。

どうしても罰金の納付が困難な場合は、検察庁の「徴収事務担当者」に相談するようにしましょう。

まとめ

人身事故を起こしたら、10~20%の確率で起訴されて刑罰が科されます。
刑罰の90%近くは罰金となり、その金額で一番多いのが30~50万円です。

ただし、死亡事故や無免許運転、飲酒運転などの危険運転による事故の場合は、起訴される確率が高くなり、刑罰も罰金ではなく、懲役が科される可能性も高くなりますので、ご注意ください 。